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?混合溶液が示す複雑な溶液物性の変化の高精度かつ簡便な分子シミュレーション法を開発?

2018年10月5日更新

森寛敏准教授らの理論化学工学に関する研究が Advances in Engineering のウェブサイトにてハイライト紹介されました

基幹研究院自然科学系の森寛敏准教授(JST さきがけ マテリアルズ?インフォマティクス領域研究者)研究室では、混合液体が示す種々の化学機能の最適化を目指した分子シミュレーション法の基礎理論開発と応用研究、および企業等との共同研究に取り組んでいます。森研究室が発表した「有効フラグメントポテンシャル法に基づく化学精度と計算効率を兼備した第一原理分子動力学シミュレーションによる混合液体物性の予測」に関する論文が、理論物理化学のみならず化学工学的に特に重要度の高い研究成果として、Advances in Engineering (以下AIE)のウェブサイトで紹介されました。AIEでは、主な化学?化学工学系学術雑誌の研究成果のうち、優れた論文等を世界の研究者?民間企業にハイライト紹介しています。AIEが注目したのは、森准教授および博士後期課程学生の黒木菜保子さん(日本学術振興会特別研究員 DC2?JST ACT-I 情報と未来領域研究者)が、共同で2018年2月に発表した以下の論文です。

Kuroki N., Mori H.*, selected as a Frontiers Article
Applicability of Effective Fragment Potential version 2 - Molecular Dynamics (EFP2-MD) Simulations for Predicting Excess Properties of Mixed Solvents,
Chem. Phys. Lett, 694,82-85 (2018).
https://doi.org/10.1016/j.cplett.2018.01.042

※本研究はJSPS科研費 16K13928?JST さきがけ JPMJPR16NC?JST ACT-I JPMJPR16UBによる助成を受けたものです。また、本研究推進に当たり、自然科学研究機構計算科学研究センターの計算機資源を使わせて頂きました。

研究概要

研究概要

一般に、混合溶液の物性はその構成成分の性質の単純和とならず、非線形な振る舞いを示します。例えば、同じ体積の水とアルコールを混合しても、その混合溶液の体積はそれらの和とはなりません。そのため、溶媒の混合により発現する特定の化学機能を狙って設計する化学工学の分野では、その機能最適化に多大な実験的労力を費やしています。このような状況の解決を目指し、近年、分子間に働く相互作用を、古典力学もしくは量子力学のレベルで評価し、溶液物性を評価する古典分子動力学/第一原理分子動力学シミュレーションの適用がなされています。しかし、古典分子動力学法では、混合溶液物性を高精度に再現するために、予め実験結果をよく再現するように決定した分子間相互作用パラメーター(力場)を用いる必要があり、未知の混合溶液物性を高精度に「予測」することは困難です。同様に、第一原理分子動力学法では、未知の混合溶液物性の予測能力はあるものの、その計算は量子力学に基づく計算であるためコストが高くなってしまう問題がありました。

森准教授らは、一見、純物質からかけ離れた物性を示すように見える混合溶液であっても、その物性の起源は混合系を形成する各成分分子の性質に起因することに着目することで、この予測能力(精度)と計算効率の問題を解決できることを示しました。即ち、各成分分子の性質はその分子の電子状態(波動関数)で決まるため、混合溶液のような複雑系における分子間相互作用は、その構成要素であるそれぞれの分子フラグメントの波動関数の組み合わせから簡潔に定式化できます。森准教授らは、この「有効フラグメントポテンシャル」の概念を分子動力学計算に導入することで(EFP-MD)、電子状態を考慮した高精度な物性予測と高い計算効率を同時に実現することに成功しました。EFP-MD 法は分子フラグメントの波動関数さえ計算できれば、任意の混合溶液に対して適用可能であるため、様々な機能性混合溶液の開発に取り組む化学工学の分野において、多大な貢献をすることが期待されます。今回、海外の第三者機関から注目された事は、EFP-MD 法に関する本研究成果が実用的?応用的に重要な研究成果であることを示しています。