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平成29年度卒業式 学長告辞

2018年3月29日更新

平成28年度 学位授与式 学長告辞

本日、学士の学位を取得され、卒業式を迎えられた520名の皆さま、まことにおめでとうございます。お茶の水女子大学の教職員を代表して、今日の佳き日をお祝いさせて頂きます。そして今日に至るまで、お嬢さま方の学びや生活を支えて来られたご家族、ご関係の皆さまの、長年のご尽力に感謝申し上げますと共に、お嬢様方のご卒業を心よりお慶び申し上げます。
また、御来賓の皆さまには、お忙しい中、ご臨席を賜りまして、卒業生たちをお励まし頂けますこと、まことに有難うございます。今後も、お茶の水女子大学の卒業生の将来を、お見守り頂けますと幸甚に存じます。

今朝、卒業や修了を控えた皆様が、新しくなった正門の門扉の前で写真を撮っていらっしゃる光景に出会いました。あの門扉は、第2次世界大戦の最中に軍によって供出させられて、その後ずっと仮の門扉が取り付けられていたものですが、昨年、卒業生や教職員の方々の念願が叶って、昔の形に復元されたものです。
丁度、以前の門扉とお別れした頃の卒業生の方から、「新しく門扉が復元されて、涙が出るほど嬉しかった」とのお言葉を頂き、私たちも、復元できてよかったと、とても嬉しく思いました。
皆さまは、新たな門扉が復元されてから、記念すべき最初の卒業?修了生です。

皆さまがご参集下さっているこの徽音堂には、日本の国旗と共に、本日卒業?修了の佳き日を迎えられた留学生の方々のお国の旗も掲げてあります。
留学生の皆さまにとって、環境も習慣も異なる日本での生活はとても大変であったろうと思います。お茶の水女子大学を学びの場として選んで下さった方々が、本日、無事に卒業の日を迎えられたことを、心から嬉しく思っています。
母国に戻られて活躍される方もいらっしゃるでしょうし、日本に残って大学院で学ぶ方、就職される方、また日本以外の異なる国に学びの場を求める方もいらっしゃると思いますが、お茶の水女子大学の卒業生として、それぞれの道を、誇りを持って歩んで頂きたいと願っています。

本学は1875年にわが国初の女性のための高等教育機関として国によって設立されてから、140年余りにわたって、社会を牽引する優れた女性達を育て、多様な教育?研究の実績を基盤とする特色ある学問を創成して、平和で公正な社会の発展に貢献して参りました。

長い歴史の中で、本学からは、数多くの優れた卒業生が羽ばたき、国の内外で活躍して参りました。そして現在も、社会の様々な領域で活躍している女性たちと出会ったとき、その多くが本学や本学の附属学校の出身者であることに、驚かされることも少なくありません。
皆さまも、卒業後に、いろいろな場で先輩たちにお会いになることも多いと思います。そんな時、臆することなく「お茶の水の卒業生です」と、声を掛けて下さい。先輩たちは、後に続く皆さまを力強く後押しして下さることでしょう。
因みに、在学中に奨学金や賞を受けられてご存知の方も少なくないと思いますが、本学の同窓会「桜蔭会」では、素晴らしい先輩たちが、卒業生のネットワークを通じて、若い方々の活躍を支援して下さっています。

皆さまが入学されてからの4年間に、本学は様々な記念の年を迎えました。一昨年度には創立140周年を迎え、昨年度には附属幼稚園の創立140周年、そして今年度には附属中学校の創立70周年を迎えました。それぞれの記念式典や記念行事には、各界から多数の皆さまがご列席下さり、共にお祝い下さいました。
こういった周年行事は、わが国の幼児教育から大学院教育までの幅広い教育と研究において、本学が果たしてきた役割の大きさと、その中で若い学生さんたちと共に努力することができる幸せを実感することができた、素晴らしい機会となりました。

今年度は、また、フランス?ストラスブール大学との交流15周年と、アフガニスタン女子教育支援15周年を迎えた年でした。いずれも、15年という節目に当たって、これまでの歩みを振り返り、またこれからの活動のあり方を考えるために、ストラスブールと本学に於いてシンポジウムを開催しました。

2002年に締結されたストラスブール大学との交流協定を起点として、本学とフランスとの交流が盛んになりました。駐日フランス大使館の協力も得て、フランスの様々な大学との間で共同して博士研究指導を行って学位を授与する「共同博士課程」も開始され、本学とフランスの大学から学位を取得した卒業生達は、今、国境を越えて活躍しています。 そして、毎年、学部学生や大学院生がストラスブール大学をはじめとするフランスの大学に留学し、また、研究者の相互派遣が実施され、教育や研究において成果を挙げています。

なお現在、本学では、26カ国74の大学との間で交流協定を結んで、学生?院生?研究者の学術交流を盛んに行っていますので、卒業生の皆さまの中には、これらの制度を利用して、留学された方も多いのではないかと思います。
アフガニスタン女子教育支援事業では、長年にわたる紛争によって社会経済システムや教育システムが破壊されたアフガニスタンの女子教育の建て直しのために、文部科学省、JICA、外務省などのご助力を得て、留学生の受け入れ、教員や教育行政関係者の研修など、様々な活動を続けて参りました。困難な事業でしたから、とても本学独自で実施することは出来ませんでしたので、当時の本田和子学長が、津田塾大学、東京女子大学、日本女子大学、奈良女子大学の学長の皆さまに呼びかけて「五女子大学コンソーシアム」を結成し、その後、紆余曲折はありましたが、15年間に亘って活動を続けて参りました。

昨年11月29日に開催された公開シンポジウムには、多くの関係者の方々のご参加を得て、ご講演やご挨拶を頂き、また、五つの女子大学で修士号や博士号を取得し、祖国に戻って大学教員として活躍している留学生たちのビデオレターの披露がありました。 この事業を通じて、遠いアフガニスタンから本学や4つの女子大学に留学して来た女性たちが立派に成長して、現在、母国の女子教育のために力を発揮している様子を知って、胸が熱くなる想いでした。
彼女たちの凛とした姿を見て、また意欲溢れる言葉を聴いて、この事業を開始した際に初めて本学に来られた若い女性の姿と言葉を思い出しました。その方は「私たちの祖国は、戦乱で荒廃し、女性のための教育システムがすっかり破壊されてしまいました。私たちは今、日本の皆さんに、女子教育の建て直しのための様々なご支援をお願いしています。でもいつの日か、私たちは祖国の教育を建て直し、女性のための高等教育も完備したいと願っています。その日が来たならば、日本の方たちに、是非、見学にいらして頂きたいと思っています。」とおっしゃったのです。その方の願いは、今どこまで進展しているのでしょうか。まだまだ道のりは遠いと思いますが、その中で、留学生たちのビデオレターからは、復興の兆しを感じることができました。
この事業の下、本学では、これまでに修士号取得者7名、博士号取得者2名を輩出することができ、現在も4名の留学生が学んでいます。

今回のシンポジウムは、私たちが「望めば学ぶことができる」恵まれた環境にあることを、深く自覚させるものともなりました。そして、争いのない穏やかな日常を過ごし、愛と信頼で結ばれた人々との生活を慈しむことの大切さを心に刻むことができた機会でした。平和な社会においてこそ、女性達の豊かな学びが実現できることや、女性達が学ぶことで社会に多様な考え方が生まれ、人々の幸せに資する活動が推進できることを認識できたこと、そして、豊かな女子教育の経験を持つ「日本の女子大学」が、学ぶ機会や権利を奪われている女性たちの教育のために協力して来たことが、大きな成果に結びついていることを確認できたことも、大きな喜びでした。
これからも本学は、これまでに築いてきた女子教育の基盤を大切に、常に日本や世界の人々の幸福のために何ができるかを問い続け、学びと研究を深めて、「学ぶ意欲のあるすべての女性にとって、真摯な夢の実現の場として存在する」というミッションの下で、未来に向かって誇り高く存在し続ける大学でありたいと願っています。
本学で学ばれた皆さまには、是非、母校の理念を深く理解して頂き、多様な文化的背景を持った人々、学びの場に恵まれない人々の存在を、身近に感じ続けて頂きたいと思っています。そして皆さま自身が、そういった人々を励まし、互いに助け合って、学びの環境の整備のために協力して頂きたいと願っています。

今月11日で、東日本大震災(震度7、M9.0)から7年の歳月が流れました。でもまだ、多くの被災者の方々が、辛い生活を送っていらっしゃいます。そしてまた、東日本大震災からの復興もままならないうちに、2016年には熊本大地震(震度7、M6.5)が起こって大きな被害を引き起こしました。2000年から2017年までの間に、日本で起こったM6以上の地震は90回にも上ります。
これらの大震災がもたらした悲惨な事態から、私達は、人知が及ばない自然の力の大きさを知らされると共に、人々が心を寄せ合い、助け合うことの素晴らしさも強く認識させられました。

私は、今日卒業される皆さまの中の少なからぬ方々が、被災者に寄り添いたいとの温かく強い想いを持って、救援活動や復興支援活動に参加して下さったことを知っています。春、夏、秋、冬の学校の休みを利用して、被災孤児や遺児の支援活動を、私たちとご一緒して下さった方々もいらっしゃいますね。継続した被災地訪問を通じて被災者を支える活動を続けた方々や被災地の子ども達の学修支援に奔走した方々など、多くの学生さんや教職員の皆さんが頑張って下さったこと、今も心を込めて活動に携わって下さっていることに、私たちは心から感謝しています。

そうした皆さまは、不幸に見舞われた方々のために、自分に何ができるかを真剣に考え、行動することを通じて、日々重ねてきた学問への研鑽のみならず、社会における自らのあり方を問い、自己研鑽を重ねて、大きな成長を遂げて来られましたね。 今日そのような経験も経て卒業の日を迎えていらっしゃる皆さまの姿を拝見して、とても頼もしく思っています。そして、皆さまの姿勢から、私たちは改めて現実を直視し、大学のあり方、教育?研究のあり方、この地球で生きるために私達が為すべきことを、原点に戻って考えたいと思っています。


皆さまの卒業後の進路は様々でしょう。社会に出ていく方も、また、引き続き大学に残って大学院へ進学する方もいらっしゃいますね。どのような道に進むにしても、是非、生涯にわたって豊かな「教養」を身につけるための学びを、継続して頂きたいと思っています。これまでのご自分の専門以外の事柄にも、常に大きく目を開いて、新しい知識や異なったものの見方や思考の方法を絶えず学び続けて下さい。
そして、「より良い社会に向けた自分自身の在り方」を問い続け、「他者の視点や思想の違いなどの多様性を認め合う姿勢」を持って行動して頂きたいと願っています。

また、社会に出てから、大学での学び直しの機会を利用して頂くこともお勧めしたいと思っています。本学では、皆さまが継続して学び続けることが出来るよう、種々の教育改革を実行しています。学び直しや新たな分野への挑戦を可能にする制度や、分野横断的に学べるようなカリキュラムも強化しました。また、仕事を持って、キャリアアップを目指す女性達のための「ビジネスリーダー養成塾」も開講しています。時間のない方々には、様々な公開講座や公開シンポジウムなども活用して頂けると思いますので、卒業後も、積極的に母校へ学びにいらして下さい。

私がお茶の水女子大学の教員になって、最初の卒業生を送り出した30年余り前から、毎年、卒業生の方々にお伝えしている「失敗しても諦めない」という言葉を、最後にお贈りしたいと思います。長い人生の中では、思いがけないことが起こります。困難な場面に遭遇して、物事が思うように進まないことも少なからずあると思います。人生の谷に差し掛かかると、諦めたくなったり、逃げたくなったりすることもあるでしょう。でも、諦めたり、逃げてしまったりしたら、それまでの努力が無駄になってしまいます。低空飛行を余儀なくされることもあると思いますが、困難な課題に出会っても「諦めない」ために、皆さまは、この大学で様々なことを学んで来られたのだと思っています。諦めることなく、どんなに低空飛行でも、飛び続けて頂きたいのです。 飛び続けてさえいれば、必ずまた高く飛べるときが来るはずです。飛ぶことをやめてしまうと、また飛び立つためには大きなエネルギーが必要です。そして、困難に出会って悩んだ経験や、それを乗り越えた経験は、周囲への思いやりや共感にも繋がりますし、そこから自分自身への自信や誇りも生まれます。

でも、困ったときには一人で悩んだり苦しんだりせずに、是非、周囲に助けを求めて下さい。皆さまが周囲の方々への思いやりを忘れないのと同じ様に、皆さまを思いやり、助けて下さる方がいらっしゃるはずです。

そして、いつでも、母校であるお茶の水女子大学に、羽を休めに帰っていらして下さい。悩みを抱えている時だけでなく、嬉しい時、悲しい時、学びなおしたい時、、どんな時にも、そしていつまでも、お茶の水女子大学は、大きく扉を開いて、皆さまを喜んでお迎えします。そのことを、忘れないで頂きたいと思います。

では、お元気で、新たな道に踏み出して下さい。私たちが、皆さまを誇りに思うと同様に、皆さまにも、本学の卒業生であることに誇りを持って、理想高く歩んで頂きたいと願っています。
これからの皆さまの輝かしい未来をお祈りして、お祝いの言葉を結びます。
ご卒業、まことにおめでとうございます。

2018年3月23日
お茶の水女子大学長
室伏 きみ子